けん制のバリエーションは多々あり、目的もいくつかある。
刺しに行くときもあれば、間をとるため、相手の出方をうかがうなど。
ドカベンでは殿馬が緊急登板した時、
ピッチャー経験がないため、けん制で変化球を試すというシーンもあった。
その中で、刺しに行くけん制の大技、一発牽制。
2015年夏の準決勝、仙台育英‐早実戦という大きな試合で飛び出した。
序盤の早実の攻撃、2死満塁、打者は現早大でも4番を打つ加藤、
仙台育英のマウンドは現オリックスでサイドスローに転じた佐藤。
キャッチャーは慶應でマスクを被る郡司。
ショートはロッテの平沢という面子だった。
この試合は総合力で仙台育英が勝っているという試合前からの図式があった。
そしてこのプレーが飛び出す3回裏時点で、すでに早実は3点のリードを奪われていた。
この場面、早実としては実力が劣っておるため、リードされた展開でついていかなければ勝ち目がない。
この絶好のチャンスになんとか点差を縮めたいため、
2塁ランナーとしてはワンヒットで還りたい心理が働く。
すると守る仙台育英としては、セカンドランナーの動きから「いける!」と判断できることになる。
これは、ショートからのサインだったそうだ。
ランナーの動きを見ていたショート平沢が、
キャッチャーへ「くれ!」のサインを送る。
キャッチャーは、ピッチャーへショートが欲しがっているとサインを送る。
ピッチャーは、ランナー無警戒の振りをして、ランナーを全然見ない。
ランナーは油断する。
そこへ、ショートがベースへ走る。
キャッチャーは自分しか見ていないピッチャーへ「今だ!」とミットを動かす。
ピッチャーは背後にショートが入ったことを伝えられ、振り向きざま2塁へ放る。
これとは違う一発牽制が
2016年準々決勝での作新学院のプレー。
作新のマウンドは現西武の今井。
これが、仙台育英の時と違うのは、サインプレーでなかったということだ。
今井は、セットポジションに入る前、2塁をじっと見ていた。すると、ショートがベースへと動き出した。
そこへ、今井は回転し、牽制アウトを奪ったのだ。
作新の場合はアイコンタクトだったわけだ。
プレーとしては、高度でない。じっと見つめていて、動き出したのに合わせて投げただけ。
2塁ランナーの凡ミスとも言える。
仙台育英のプレーが高度と言えるのは、日頃から鍛えたフォーメーションを味方の動きを見ずに
成功させているからだ。
そして、静止した状態で次のプレーを無言のサインという方法で息を合わせ、
その頭で考えたことを次の動たるプレーにて現実のものとしたことだ。
決まった時は試合を有利に働かせるビッグプレーとなる。
その理由は、牽制というプレーは、1試合で1度、いや1大会で1度しか使えないプレーだからだ。
つづける。