大阪桐蔭が敗れた客席への挨拶の際、星子キャプテンが「ごめん」と叫んだ。
ベンチを外れた3年生へ今湧き出る感情を叫んだ。
大阪桐蔭の3年生はほとんどが中学までチームの主力として活躍してきた選手たちだろう。
その選手たちが日本一の野球部で実力を伸ばそうと覚悟して入部したが、全国の強者の中では
下級生にもベンチ入りを譲ってしまう、という境遇だ。
実力がありながらケガや悩みで思うような高校野球人生でない選手も多かろう。
その仲間たちの価値を上げるのは春夏連覇という最強チームの証明だった。
最後の夏が始まる頃にはベンチを外れる選手は裏方に回るものだ。
チームの力を最大発揮するためには全員がボールを扱っていては達成できない。
実力がある者、試合に出ると決まった者に、良い状態になってもらうためにプレーをせず、
手伝いに回る。
そういう仲間たちに報いるために全国制覇を誓ったことだろう。
そして、ありがとう、という気持ちを最も表す方法は勝ち上がることだ。
甲子園に届かず、地方予選で姿を消す強豪ならベンチを外れた仲間に「ごめん」や
「ありがとう」という言葉を交わすことは多くあるだろうが、甲子園で「ごめん」は
大阪桐蔭ならではと言えるだろう。
優勝することだけが成功を認められるチームだからだ。
「ごめん」が口につく、大阪桐蔭のキャプテンは大変なプレッシャーだろう。
春を勝ったことでなおさら周囲からのプレッシャーもかかってくる。
ヤンチャな森でさえ、大阪桐蔭のキャプテンとして、前年春夏連覇のチームを引き継ぐと
そのプレッシャーに涙があふれる時があった。
全国から集まる猛者たちをまとめ、勝つことだけに意味を見出せるチームは他の高校野球部とはちがう。