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打力がないとプロからの誘いも来ない

荒木が2000本安打を達成した時の、落合のコメントはおもしろいものだった。

「相手のヒットを捕った数を加えられれば、とうの昔に2000本行っているよ」

という発言は、まさにその通り。

 

名球会の入会条件もヒットの数でしかないが、野球は点をやらないスポーツなので、

相手のヒットを阻止した守備はヒットと同等以上の価値がある。

そして、その守備力と走力があったからこそ、常時、試合に出場することができ、

2000本のヒットを重ねることも可能となった。

ただ、この時、落合は「野球は点取り勝負だけど、点をやらない勝負でもある」

と言っていたようだが、逆だ。

野球は点をやらないスポーツであり、相手より一回多くホームを踏んで、守り抜くというスポーツ。

 

点取りスポーツとはバスケやバレーのように無失点に抑えることは不可能で、点をやりながらも点をとり、

加点していくスポーツを言う。

野球は守ることがベースとなっており、少年野球からプロに至るどの世代、どのレベルにおいても

イニングのスコアには“0”が刻まれることが圧倒的に多いのだから。

 

そもそも落合は監督就任の際、「おもしろい野球をやるつもりはない」と発言し、

三冠王・落合には打つ野球をやるのではという周囲の当然のイメージがあったが、

落合は、守りの野球をやり、きっちりとした野球で勝つことを宣言した。

点をやらない野球で勝つと宣言していたのだ。

 

野球の本質はこれ。実はこれが一番おもしろい。

打撃は、“水もの”という表現がある通り、いつも高い確率がとれる作戦として採用するべきものではない。

だから、打撃に頼ると、うまくハマれば大勝するが、ダメなら負けが続くことになりかねない。

そんなものに頼って勝負をするわけにはいかないということだ。

 

長いシーズンでひとつ相手より勝ちが多ければチャンピオンとなるプロの世界は、

全ての試合を勝とうとしない。

負け試合をつくりながら、リーグの中でチームを有利な位置にもっていくゲームだ。

そのためにも、計算しやすい守備のチームをつくる。

そこにピタリハマったのが若い荒木だった。

 

荒木は、脚力と守備力、そして細身ながら身体能力の高さがあった。

鍛えれば、戦力になると踏んだのだろう。

かつて、オリンピックの時だったと思うが、荒木が選手として一番、アブラがのりきっていると思われる頃に

その名前が日本代表になかったことがあった。

その際、落合は、

「俺だったら荒木をセカンドにするけどな。あいつは世界一のセカンド」

とものすごく高く評しているのが、とても印象に残っている。

 

荒木は抜群の守備力とそれを可能にする脚力が優れた選手。

守備と走塁でファンが期待し、それに応えてくれる見事なプレーを見せてくれ、

まさにエンターテインメントを含んだ魅せるプレーをしてくれる選手だった。

 

プロになるには野手の場合、打力がないとプロからの誘いも来ないものだし、

たとえ、入団がかなっても守備力や走力だけでは常時試合出場というのはむずかしいもの。

守備は、練習を重ねればうまくなる。

打撃を買われて入団した選手が、最初は下手でも使えるようになるから。

そして試合で打球が飛んでこない可能性もあり、守備力があろうが、なかろうが試合に影響しない可能性もある。

一方、打席は3打席は回ってきて、4打席、5打席それ以上もあり得、だから、一般的には

多少守備に目をつむっても打撃力を優先する傾向がある。

 

アマチュア選手でプロレベルの守備力をもつ選手は多いが、プロレベルの打撃力があれば、

アマチュアでとどまっているということは少ない。

 

荒木は、2000本安打を達成し、名球会入りした選手で最もホームランが少ない33本。

ホームランを打つ選手を目指さず、脚を生かした選手になることを選んだ結果だろう。

また、つなぎの打順を任されることも多く、打席での制約が多い。

その中で2000本のヒットを重ねることは、とても大変だ。

ほとんどの名球会入り打者がクリーンアップを打つなどチームの主力であり、

自由に打たせてもらえる立場にある選手ばかり。

 

これは、宮本にも通じる。

つなぎの役目だった宮本も打席に制約が多く、名球会選手では荒木の次にホームランが少ない。

つなぎを求められ、打席に制限が多い荒木と宮本は、そのため2000本安打達成が遅くなった。

荒木は入団から22年での達成という、キャッチャーだったから長くできた谷繁に次ぐ2番目の遅さだ。

宮本は大学→社会人を経由していることもあり、41歳5ヶ月でという達成当時は最年長記録だった。

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