フロントドアを一般にしたのは黒田だろう。
技術自体はこれを使うピッチャーは昔からいたが、言い方がなかったように思われる。
ヤンキースのローテーションピッチャーの武器として、日本にはなかった言い方を浸透させた。
打者に近いボールラインからストライクゾーンへと変化させるフロントドアを
打者はボールと思い腰を引く。
しかし、軌道はストライクへと入ってきて見逃しストライクをとる。
黒田が日本に帰ってきて、オープン戦で対戦した打者は「見たことのない球」と大げさに言ってさえいた。
黒田の言によると、もし変化しなくともボールだから打たれないし、打ってもファールだし、
フェアゾーンに入れようと打者が思えば快心の当たりにはならない、ということ。
変化せず、そのまま行けばボールカウントがひとつ増えるだけで打たれはしない。
そしてそれは結果、インコースをついた見せ球の効果に変わる、とのこと。
同時にバックドアという技術も一般にした。
フロントドアを知ったから、その反対の球はバックドアとなっただけだ。
今は外スラなんて言い方をするが、外から巻き込むように中へ入れる技術は以前からあった。
外からシュートで入れる球を外シュートとも外ツーシームとは言わない。
イチローと松坂の初対戦での二つ目の三振は、バックドアと言ってよさそうな
スライダーで見逃したものだった。
しかし、これは逆球だったのだろう。
三つ目はバックドアではなく、抜け球が奏功した。
松坂のように意図して投げていないのにバックドアの働きをして、
かえって打者は打ち損なう、手が出ない、ということがある。
ところが、このような球で打ち取ってもピッチャーは気持ちいいものではない。
次週へ。