毎日野球コラム - 野球コラムサイト -

菊池のオーバーランと東邦の守備妨害 再録

令和退場第一号は広島・緒方監督だった。

これは菊池が打った遊ゴロのファーストへの送球が高くなり、ファーストの脚が離れ、

一旦セーフとなったもののファーストが着地した場所が一塁線上となり、

走ってきた菊池がそれを避けようとフェアゾーンに入ったところタッチされてアウトとなったプレーだった。

 

審判団の説明には
「最初に緒方監督から言われたのは『(菊池が)セカンドに向かう意思がなかったんじゃないか』という話で、
こちらはセカンドに向かうと判断した、うかがった、そういう動きに見えた、
とジャッジメントしてアウトにしました、と。
そうしたら(緒方監督から)『リクエストしてくれ』と。
『アウト、セーフならできる』と言ったら(緒方監督から)『見て欲しい』と。
審判団で集まって、取り決め通り、アウトかセーフのリクエストを受けて、
リプレー検証して、その結果をアウトと従来通りしました」
とあった。

そういうことなら、緒方監督としてはリクエストをせずに、

オーバーランか駆け抜けかに争点を置いて、抗議するしかなかったということになる。

 

しかし、その部分で抗議を続けても判定は覆ることはなかっただろう。

それは、タッチが早いか遅いかの定量判定ではなく、進塁意思があったかどうかの定性判定だからだ。

 

こういう部分について、審判は一度下した判定を覆すことはない。

定性判定はその時の感覚であり、見え方だから。

その時、感じたことを後から覆すことはしないし、できないし、すべきでないと
思っているはずだ。

 

しかし、その場の抗議を続けるとしたら、

緒方監督の態度としてはリプレー検証をすることが自然な流れではある。

菊池の意思について抗議を続けていても埒が明かなそうだから、そっちへ賭けようとするはずなのだ。

 

監督としては、と言うより勝負師としてはおかしいことには執拗にアタックしなければいけない。

そして審判としては意思があったと受け取ったのだから、それを貫き通し、

リクエストには答えるけれど、改めてアウトとコールし、

その後の抗議は受け付けないルールに従い、退場を宣告した。

 

審判団のとった一連は然るべき処置であり、何ら不自然はなく、適正だ。

 

今後の課題となるのは、10人が観たら、そのうちのほとんどが菊池は避けただけ

という見方があるプレーを審判団が意固地になって即座の判定にだけ頼るということをせず、

協議の末に判定が覆ることもあり得るということを取り決めることだ。

 

時間が経って、4人の審判が全員、菊池には進塁の意思があったと確信しているとはとうてい思えない。

判定は協議の末、改めることが何ら問題ない。

人間だから見間違える。

だからリクエストという制度ができたくらい。

抗議に対して協議して、覆すことは恥でも何でもない。

 

判定は正確こそ是。

そして、試合が終わってから、あるいは進行してから後悔してもとり返しがつかないから。

 

ただ、世間で多く口に上っている、菊池が慌てて戻ったから進塁の意思があった、

という見方は間違いだ。

多くのメディアや野球解説者でもそう言っている人がいるが、危険な見方だ。

 

確かに、菊池が悠然と帰塁して、菊池本人が即座に中島を避けただけですよ、

というアピールをすることが最善であり、そうしていたらアウトでなかったかもしれない。

ではあるものの、菊池としてセーフになる可能性がある帰塁を選択したことも責められない。

 

菊池が慌てて戻ったことを審判団が理由にしなかったのはよかった。

そこを理由にしていたら、一気に審判団のミスということになってしまう。

慌てて戻ろうが、悠然と戻ろうが、戻り方など選手の勝手だからだ。

 

そこを理由にしたら、あとからの言い訳になってしまう。

あくまで、オーバーランに進塁の意思を見つけなければいけないので、

そこを貫き通した審判団の見識は筋が通っている。

 

こういう定性判定にはこんなものもあった。

 

あるセンバツでの花巻東-東邦の一戦。東邦の四回の攻撃。

東邦は一塁ランナーがスタート。

投球はインコース低め、バッターの足付近に来た。

 

これをバッターは足を引いて避け、その反動で今度は前へ、つんのめる形になった。

すると足が前に出てしまい、右足がホームを踏んでしまった。

これにより、キャッチャーの二塁送球の真ん前に立つことになってしまい、

キャッチャーの送球は浮いてしまった。

したがい、審判は守備妨害を宣告した。

プロではとらないかもしれないプレーだ。

 

守備妨害を宣告するのは、その通りだろう。

完全にキャッチャーの前をふさいでおり、送球の邪魔をしていた。

 

だが、この場合、投球を避けた反動でたまたま、そういう体勢になってしまったからであり、

わざと妨害したわけではない。

 

だから守備妨害でいいものの、打者アウトはかわいそうだ。

ここは、不可抗力であるのだからランナーは一塁へ戻して再開が妥当だろう。

 

これが、空振りをして体勢を崩して、前をふさいだのなら打者アウトでもいい。

それは、空振りをするというバッターのミスにより起きた行為だからペナルティがあっていいわけだ。

しかし、このケースは、投球がバッターの近いところに来て、それを避けたために起きたプレーだ。

 

しかし、ルールにはその規定がない。

守備妨害としたら打者アウトとするしか方法がないのだ。

だから、審判の判断は正しい。

 

しかし、プレー再開にとられた次第としては納得がいかない。

体付近に来た球を避けただけのバッターがアウトを宣告されるのだから。

言われたバッターは、えっ?俺がアウト?となる。

ルールの欠陥と言えよう。

 

このプレーを受けて東邦のみならず、各チームも取り組むべき課題を発見した。

とにかく、盗塁があるケースではバッターボックスを出ないようにするということ。

そのためには、不意に避けなければいけない投球に対してどういう体勢をつくっていくのか。

 

菊池の場合も、その対応を審判とチームで話し合い、今後、このようなケースはどうするかを確認すべきだ。

 

チームとしてとるべき方法はとりあえずの現状では菊池がファーストを避けただけですよと

即座にアピールするということになるのだろう。

 

菊池のケースも東邦のケースもどちらも不可抗力にて起きたプレーであり、

今後も起きうるので対処法を生み出す必要がある。

野球情報メールマガジン

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

傑作コラム

TOP