その巧みさやすごさを強調したいがために誇張して
「右手一本でもっていった」などと言い出す。
右手一本と言った場合、左打者だし、左手なら右打者。
構えたときは両手で握り、振り出した時も両手なのだから一本で打ったわけではないし、
一本でもっていったのではない。
両手で振り出し、加速した勢いがあるので、最後、後ろの手を放して打っても
決して一本で打ったわけではない。
大げさな言い方は、聞いている者が理解していればいいが、そうでない場合がほとんどなので
技術理解という面でいえば、良い作用は及ぼさないだろう。
ワイルドピッチの時、「引っかけた」という表現を使う。
ピッチャーだけでなく、送球の際にもこの現象は起き、同じ表現を使う。
「引っかける」は腕が振れられて行く方向へ投球、送球が逸れていくこと、それは
目標に届かなく、バウンドする投球、送球の時に使う。
中身を顧みることなく、この現象が起きると一様に使う。
逆に、腕を振る方向とは逆へ行くことを「抜ける」と言う。
「抜ける」は放すつもりのタイミングより早く、手から離れてしまうことで
「抜ける」という表現がピタリはまるので、これは一様でよいだろう。
ただ「引っかける」は本当にそうだろうか。
腕を振る方向へバウンドするような投球や送球は、引っかけた場合もあるが、
それより意図したリリースポイントが遅かっただけで、引っかけたわけではなく
自分の感覚とのズレという場合の方が多い。
つまり、そのリリースポイントで良いと思ったけど、軌道は違うのか、という場合だ。
決して「引っかけた」という感覚ではない。
「引っかけた」と言うと、くっついて離れなかったという感覚で違いがある。
野球選手の感覚が全て正しいわけではなく、むしろズレている場合の方が多く、
だからこそ失敗が数多く起こり、競技として相手より上回る活動により勝負が成り立つ。
「抜けた」場合は自分の意図ではなく、先に放たれてしまい、感覚のズレではなく
失敗だ、とすぐに反応するものだ。
投げた次の瞬間には「あっ抜けた」となるもの。
「引っかけた」と表現される球の軌道はそれとは違う。