高卒ピッチャーがプロの世界で戸惑うことの一番と言えるほど大きな事が、ストライクゾーンだ。
他にもいっぱいあるよ。
高校生がいきなり、何億ともらい、
華やかで、多くの注目を浴びる、という異質の世界に驚くだろうし、
また、プロのレベルの高さや見たこともないプレーをする選手に驚くこともあろう。
しかし、
マウンドに立ってしまえば、幼少の頃から続けているピッチングをするということは同じことだ。
一般社会において、それまで学生として生活してきてから会社に入社したりして、
まったく慣れていないことをしなければいけないのとは違う。
ピッチングをするという今までと同じことをする。これは、楽なことだ。
マウンドに立ってしまえば、ピッチャーの本能が目覚める。
つまりは相手打者をやっつける本能が現れるのだ。
だからこの瞬間、高校とかプロとかの意識は一気に薄れる。
「喰ってやる」という闘争モードに切り替わる。
ところが、ここでストライクゾーンの大きな違いに、戸惑うことになるのだ。
ボール2つはちがう。
打者からしたら高校野球のストライクゾーンが広いこと、
審判によってどこをストライクととるかあまりにも違うことからど真ん中さえ打てなくなってしまう。
高校野球のピッチャーは
投げ損ないでもストライクと言ってくれるから楽になる。
ストライクゾーンに来た球をボールという主審はまずいない。
逆にボールゾーンをストライクと言う主審は一試合の中で数多い。
そんな高校野球を通過してきたピッチャーは、レベルの上がったプロの打者に打たれるというより
この狭くなったストライクゾーンのおかげで打たれる。
もちろん、打者のレベルは高校時代に比べ、極端に上がる。
それも1チーム全員のレベルが極端に上がる。
江川は、プロ入り後、掛布に言ったそうだ。
「プロはすごいね。俺の球を当てるよ。」
1人の打者のレベルが上がるだけでなく、1チーム全員のレベルが極端に上がるプロでは
強打者をむやみに歩かせることもできない。
しかし、打つ行為は、技術があがっても7割失敗する。
レベルが上がっても打たれるとは限らないのだ。
打たれるのは、
狭いストライクゾーンへ入れようとする神経、その心もちが最も影響する。
プロの打者が、どこかの公立高校に入り、味方の打線が弱い中、高校生の有力なピッチャーから
結果を残すことは難しくなる。
プロの強打者でさえ、自分一人では成績を上げていくことは難しいということだ。
打線として周りの打者の力量が自分のためになる。
ピッチャーにとって
ストライクゾーンの差は、プロのレベルの大きな壁だ。