村上はこの日、ストッキングが見えるスタイルにしていた。
気分転換になる。
かつてイチローが不振の時、チームメイトが揃えたことを思い出させる。
そしてイチローのタイムリーを小さい頃見て野球を続けてきた村上は、アメリカの地でそれにあやかり、やりたかったのだろう。
その村上が最後を決めることになる。
佐々木の球が速い。
右打者には外を中心に攻めていればまず大けがはない。
真っすぐをど真ん中に投げ込んで空振りがとれるのが佐々木の球速。
海外の打者は振ってくるからなおさらだ。
これまでは格下相手だったので左打者を並べても良かったが、
ここで一流の左ピッチャーが出てきたことで序盤の日本に連打は望めない。
佐々木に粘ってもらうことだ。
日本とは違うセンターからのカメラの映り方なのか、フォークの落ちが浅く見えた。
意図して大きく落とさなかったわけではないだろう。
そしコントロールがまちまちだった。
フォークが甘く行くシーンが多く、ついにそれをとらえられてしまった。
レフトにことごとく捕られたような印象だが、さして難しい当たりはない。
岡本のホームランか、という打球もうしろに走りながらジャンプしたわけではなく、
落下点がわかっていて、来るのを待ってジャンプすればいいだけだから特別難しいプレーではない。
レフトに飛んだいくつかはナイスプレーではあるものの、ことさら難しいというわけではない。
そして右ピッチャーの時に点を獲れなかったのがここまでもつれた最大の原因だ。
そしてチャレンジした盗塁をアウトにしてくれたのはラッキーと言っていいだろう。
また、5点目を獲られた時の二塁ランナーの捕殺は映像ではノータッチにも見える。
ランナーが何も言わないところからしてタッチしているのだろうが、
メキシコはチャレンジをしても良かったプレーに思われる。
右ピッチャーに代わったところで右打者を代打に送る、先頭の甲斐に代打を出さない、
一流の左ピッチャー相手に左打者を並べ先に点をやってしまう。
采配として褒められない。
史上最強と言われるに相応しいほど個々の能力が高いので監督の采配など関係なく
監督の能力をカバーして実力で勝ってきた。
大谷が最終回の走塁で一塁ベース手前でヘルメットを脱いだのはおそらく三塁まで行ってやろう、という意識の現れだろう。
普段のシーズンで大谷は走塁に制限がある。
投げて、打って160試合活躍してもらうため、走るな、とされている。
負けたら終わりのこの試合ではそんなこと関係ない。
相手に少しでもスキがあれば三塁まで行ってやる気でヘルメットが邪魔だ、とばばかりに飛ばしたのだ。
最後の場面での村上は楽な打席だった。
特別、栗山が信頼したことが実ったわけではなく、無死で一、二塁、相手は右ピッチャーと来たら
思い切り打てばいいだけの場面だ。
もっと前の段階でビハインドで左ピッチャー2死二塁くらいの場面なら代打もあろうが、
ここは三冠王に打たす以外の選択はない。
三冠王に代打など日本野球の負けを意味する。
日本のNO.1打者の称号は当然日本を背負うことになり、
日本最高打者が世界を粉砕してこそ日本野球が世界一になる意味がある。
ところで、ここまで日本中で皆が一様に開始前にドキドキワクワクするのは国際戦ならではだろう。
各球団のファンはどうか知らないが、日本シリーズでもここまでのドキドキはなかろう。