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転げて笑う二人

12月は、恒例のイルミネーションの季節だ。

 

そこかしこをチカチカさせ、

日比谷公園では、クリスマスへ向け、ツリーにキャラクターを加え、

イベントの準備に大忙しだ。

 

近所のショッピングモールも御多分に漏れず、

人を誘おうとする。

 

私が、そのショッピングモールの建物の入り口前で人を待っていると

一人のご婦人が私と同じように人待ち顔だ。

 

そこへ

女子中学生と思しき、2人の女の子が近づいてきた。

 

「写真を撮ってもらえませんか。」

 

二人が選んだのはご婦人だった。

 

並んで立っていた40過ぎおっさんの私には

そりゃお願いしないだろう。

その理由は、数え上げればきりがないくらいあげられる。

 

スマートフォンを取り出し、

イルミネーションの方へと誘導するその二人。

 

「えー。私には撮れないかもよ。」

と、緊張が増すご婦人。

 

それでも

「押せばいいだけ・・・」

と言わんばかりの表情で

ご婦人をいざなう二人。

 

ただ、これは、モラルがずれている。

 

ここが、例えば山登りの場面ならば、

そこにいる人々は、山という環境から外へは、すぐに飛び出せない。

しかも、皆が山を登るという行為を共有している。

 

つまり、運命共同体なのだ。

 

だから、写真を撮ってもらいたい気持ちもわかり、

お互いに協力しようと寛容、陶酔している。

 

ここが、イルミネーションをメインとする観光の場面なら

そこで写真を撮っている自分と同じ行為をする人に

お願いすれば、そりゃ

こっちもやってんだから、あなたのも撮ってあげようという

気持ちになろう。

 

しかし、ここは日常だ。

 

日常の買い物という行為をする人たちが行き交う場所だ。

 

そこで、人待ちの人に自分たちの欲を満たすために

写真をお願いするのは間違いだ。

 

お願いするならば、

 

「お時間よろしいでしょうか。

私たちは、こうこうこういう者で、このイルミネーションに感動し、

この記録を明日、学校で自慢したいと切望しています。

人生の大先輩であり、見ず知らずのあなた様にお願いするのは

大変、恐縮で無礼なことなのですが、私どもの切なる願いを

叶えていただくべく、あなた様のお時間を少々いただき、どうか写真を

撮って頂けないでしょうか。それに対するなにかお返しとしては、

あなた様のお写真も撮らせていただく事くらいしかできませんが、

いかがでしょうか。」

 

と口上を述べる必要がある。

 

やむなく、イルミネーションと二人の前に立たされたご婦人は、

緊張と不安を抱え、画面を押した。

 

「びーびびびー。」

 

音楽とも雑音とも言えぬ音が鳴り出した。

 

ハッとするご婦人。

笑いながら駆け寄る女子中学生。

 

笑いっぱなしの二人は、

「ここを、ちょっと押してもらえれば・・・」

 

「えー、そうなの」

さらに不安になるご婦人。

 

『パシャッ』

 

シャッター音とともに、また笑いながら近づく女子中学生。

 

ご婦人

「撮れてた?」

 

女子中学生

「きゃははは。うん。うん。きゃははは」

 

ご婦人

「何の音が鳴っちゃったの?」

 

女子中学生

「きゃはははは。」

 

ご婦人

「ねえ、教えてよ。」

 

女子中学生

「きゃはははは。」

 

ご婦人

「長押ししちゃったから、鳴っちゃったのかな?」

 

女子中学生

「きゃははは。うん。うん。きゃははは。」

 

画面を二人してのぞきこみながら、

笑いが止まらないまま、立ち去る。

 

一人にされて

所在無いようすのその婦人に

「なにか、自分の音楽が鳴ったみたいですね。」

と語りかけた私。

「そうなの?ウフフフ」

と緊張から解放され、落ち着ける場所を探そうと歩きだしたご婦人。

 

箸が転げてもおかしい年頃の二人は、

ご婦人とは真反対の彼方へ消え入ろうとしていた。

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