落合が、名球会での活動を拒否した理由のひとつが、2000本を達成していない、
あるいは200勝に満たない選手でも素晴らしい選手が多くいたから、というものを聞く。
数字で区切って名選手とそうでない選手を分けることに納得いかないということだろう。
これに対して、野村は、
何かにつけ落合は悪い前例をつくる。
とし、名球会の存在理由は、野球への恩返しのため、野球の発展への寄与だ。
というような主旨の発言をしていたと、記憶している。
しかし、それにしては、落合は3冠王にこだわったし、後輩選手に対して、
俺と同じだけの数字を残してみろ、と言っているので、どうもその理由に納得できない。
名球会に名を連ねる重鎮は、クリーンアップを打つようなスラッガー、
首位打者争いをするアベレージヒッター、チームのエースというイメージだ。
ピッチャーは200勝というハードルが近年は高すぎるので、
入会が多く出るのは打者の方なのだが、その打者の方でクリーンアップを
打つようなタイプでなく、スラッガーでも首位打者争いをするわけでもない選手が
名を連ねることが多くなった。
その中の一人が荒木だ。
荒木は1番を打つことが多く、打席が多く回ってくるので、
ヒットを重ねることがしやすくなるとは言え、非力なタイプで打撃に優れたという感じではない。
実際、規定打席を超え3割以上をマークしたのは一度。
その荒木が2000本超えを達成できたのは抜群の守備力とそれを可能にする
優れた脚力があったからだ。
打撃ではない武器で、打撃が入会条件の2000本を達成し、名球会員となった。
細身の体ながら身体能力が高いので、守備、走塁で類まれなプレーをする。
それゆえ、使いたくなる。
いや、使わずにはいられない。
フィールドに常にいてほしい選手ということだ。
落合が監督の頃、オリンピックだったと思うが、荒木が代表に選出されないことに
俺だったらセカンドは荒木。あいつは世界一のセカンド。
と評していたのはとても印象深い。
荒木はその身体能力の高さから若い頃は左打ちにも取り組んでいた。
プロになるには野手の場合、打力がないとプロからの誘いも来ないものだし、
たとえ、入団がかなっても守備力や走力だけでは常時試合出場というのはむずかしい。
荒木は、2000本安打を達成し、名球会入りした選手で最もホームランが少ない33本。
荒木は、ホームランを打つ選手を目指さず、脚を生かした選手になることを選んだ結果だ。
また、つなぎの打順を任されることも多く、打席での制約が多い。
その中で2000本のヒットを重ねることは、とても大変だ。
ほとんどの名球会入り打者がクリーンアップを打つなどチームの主力であり、
自由に打たせてもらえる立場にある選手ばかり。
キャッチャーだったから長くできた谷繁に次ぐ2番目の遅さなのは
打撃に特化した選手でなかったからだ。
落合は荒木が2000本を達成した時、
相手のヒットを捕った数を加えられれば、とうの昔に2000本行っている、とも言った。
名球会の入会条件に野手はヒットの数でしかないが、野球は点をやらないスポーツだから
相手のヒットを阻止した守備はヒットと同等以上の価値がある。