見苦しい松坂から端を発し、対照的な黒田の引き際について続けてきた。
締めとして黒田と同い年の松井との対談を記しておこう。
高校時代は控えピッチャーで、日陰を歩んだ黒田が、
ずっとスター街道を歩いてきた同い年の松井に闘志をむき出しにするのは当然だろう。
松井も気持ちを込めて投げ込んでくる黒田との対戦を楽しんだ。
松井はまじめな性格で穏やかな人柄だ。
闘志を前面に出すということはなく、個人をライバルと見ることもなければ、
自身の記録にこだわることもない。
黒田も弱小だった広島のエースとしてチーム浮上のために投げまくった。
野球人生で楽しかったことがないというほど、精魂込めて取り組んできた。
海外移籍から広島に復帰するまでは、クオリティスタートとローテーションを守ることに
重きを置き、淡々と仕事をこなしてきた。
チームの一人として勝利のために自分のやるべきことをやってきた2人だ。
海外に渡り、別の野球にとまどいスタイルを変えた二人。
動く球に対応しようとヘンテコな打ち方になってしまった松井は失敗だった。
松井の海外での実績は、松井の実力を発揮した結果ではない。松井はあんなものじゃなかった。
自分より速い真っ直ぐを投げるピッチャーがゴロゴロいる舞台で大リーグのパワーに圧倒され、
動くボールを身に着け、振ってくる相手にゴロを打たせる黒田は成功した。
2人の対談の中でも同時に同じことばが飛び出すシーンが何度もある。
黒田:「基本チームプレーなので個人でやるっていうのが好きじゃない」
松井:「それは僕も一緒ですね。」「なんのためにやってきたか。勝つためにプレーしてきた」
松井:「この打席ほどホームランを意識したことはなかったね」「打てば逆転・・・」
黒田:「あーそうね」
松井:「三冠王じゃん」
黒田:「ホンマや」
黒田:「うわっ、狙ってんね」
松井:「狙ってんね」
黒田:「手が出ないでしょ」
松井:「これはねー手が出ないですよ。」
松井:「どう日本とアメリカの変化に自分を合わせていくか。自分が生き残るためにどうしていかなきゃいけないか。今までの自分を捨てる勇気」
黒田:「まったく同じですね。」
黒田:「今対戦したら、間違いなく、きれいな真っ直ぐは投げない。」
松井:「間違いなく、僕もそれを待たない。日本の時みたいに。」
黒田:「日本にいる時とはお互い違うスタイルで対戦する」
松井:「そうね。」
野球観が似ているに違いない。
黒田は、松井がヤンキースに普通に不安もなく、やっていけると思っていたと言っている。
自分たちとはレベルの違う選手だからということで。
野球をやっているとは言え、ピッチャーとバッターという全くちがう行為をするにもかかわらず、
黒田が松井をそうとらえていたところが、また野球という競技のおもしろいところだ。
ピッチャーであっても野手であっても、自身のレベルを上げることを
「もっと野球がうまくなりたい。」と表現する選手の多いこと。
ところで松井は20年間で2643安打、507ホームランか。
海外でのプレーがプロ生活の半分くらいだったこと、
海外に渡り打ち方を変えたこと、
晩年は不遇だったことを考えると、
日本に居続けていたら3000本のヒットを越え、ホームランも野村を超えていただろう。
最後に、黒田が打ってみてと提案して、二球ほど打った後、
「ありがとう。」と言い、「ヤンキースのローテーションピッチャーをこんなとこで使っちゃだめだよ。」
と言った松井の言葉が松井の人柄を良く表している。
それに笑顔で応える黒田の人柄も最高だ。
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